相続登記の流れ
1 相続登記とは
相続が始まり、遺言や遺産分割により、相続財産の配分が決まったとしても、それだけで自動的に不動産登記の名義が変更されるわけではありません。
不動産の名義を変更するためには、法務局に赴いて、不動産の登記名義を変更する手続きを進める必要があります。
これを相続登記と言います。
不動産の名義が被相続人のままであると、その不動産を売ったり、不動産に抵当権を設定したりしたときに、登記を行うことができません。
不動産を自由に処分できるようにするためにも、不動産の名義を相続人に変更しておく必要があるのです。
2 相続登記の流れ
⑴ 必要書類の準備
基本的には、以下の書類が必要書類となります。
ただし、案件によっては、追加の書類が必要になることがあります。
- ① 申請書
- ② 被相続人の住民票の除票
- ③ 被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本
- ④ 申請人である相続人の住民票の写し
- ⑤ 申請の対象となる不動産の固定資産評価証明書
- ⑥ 相続人が複数人いる場合は、
遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書
または
遺言書
相続登記の場合は、登記識別情報は不要です。
また、印鑑証明書については、有効期限はありません。
上記の書類に加えて、相続関係説明図(戸籍に基づいて作成した家系図)を提出することが多いです。
相続関係説明図を提出すると、戸籍のコピーを添付しなくても、登記完了後、戸籍の原本を返還してもらえます。
⑵ 登記申請、登録免許税の納付
登記申請は、上記⑴の書類を、管轄法務局に提出することにより、行います。
この時、添付書類については、法務局に原本を提出する必要があります。
さらに、添付書類のコピーも提出し、コピーに「原本と相違ない」との文言を記載し、記名押印を行えば、登記完了後、添付書類の原本を返還してもらうことができます。
ただし、一定の場合には、添付書類の原本の一部を返還してもらえないこともあります。
この時、合わせて、登録免許税の納付も行います。
登録免許税は、相続登記の場合は、不動産の固定資産評価額の0.4%になります。
登録免許税の納付方法は、複数あります。代表的なのは、登記申請書に添付された白紙に、対応する金額の印紙を貼付する方法です。
⑶ 補正
登記申請書等の記載内容に不備がある場合、添付書類に不足がある場合は、法務局から、補正の指示がなされます。
法務局の指示に従い、記載内容の修正、添付書類の追加提出等を行います。
⑷ 登記完了証、登記識別情報通知の交付
登記の手続が完了すると、法務局から、登記完了証、登記識別情報通知を交付してもらえます。
登記識別情報通知につきましては、かつての権利証に代わるものになります。
このため、登記識別情報通知を悪用されると、気づかないうちに不動産の名義を勝手に変えられてしまう恐れがありますので、厳重に保管しておく必要があります。
3 例外的な場合
多くの場合は、上記の書類を提出し、上記の手続を進めることにより、相続登記を完了することができます。
しかし、例外的な場合には、上記以外の書類を提出したり、特別な手続を進めたりする必要も生じてきます。
ここでは、例外的な場合について、1つの例を紹介したいと思います。
現実の登記手続では、登記簿の権利部においては、被相続人の古い住所が記載されたままとなっており、その後、住所変更登記がなされていないということがあります。
この場合、登記簿の権利部には古い住所が記載されており、遺産分割協議書には死亡時点の住所が記載されており、両者の記載に齟齬があることとなります。
このようなときには、住所の一致に齟齬があるため、遺産分割協議書の被相続人と登記簿上の被相続人の同一性の証明ができないこととなります。
このような場合は、別の方法で、同一性の証明を行わなければ、相続登記を行うことはできません。
この点、戸籍の附票や住民票の除票に前住所が記載されている場合や移転前の戸籍の附票や住民票の除票を取得できる場合は、前住所の記載と登記簿上の住所の記載が一致するのであれば、同一性の証明ありと扱ってもらえます。
ただ、戸籍の附票や住民票の除票については、令和元年以前は5年で廃棄することとなっており、古いものは市役所が発行してくれない可能性があります。
こうした事情から、戸籍の附票や住民票の除票では同一性を確認できないこともあります。
このような場合には、登記実務では、代替策として、①被相続人の本籍と登記簿上の住所の一致から、同一性を推定する方法、②相続人がその不動産の権利証を所持している場合は、該当する被相続人は登記簿に記載された人物と同一である蓋然性が高いと考える方法を用いることを許容しています。
このように、イレギュラーな事情が存在する場合には、特別な対処法を用いる必要が生じてきます。
どのように登記を行うかについて、きちんと方針を立ててから、相続登記に向けた準備を進めていくべきでしょう。